SS「その時歴史が動いたかもしれない」
2009/01/04(Sun)
2009年、当ブログのハヤテSS第一弾は、白皇学院理事長・葛葉キリカのSSです。
…いきなりマイナーですな。

SS「その時歴史が動いたかもしれない」

丘の上にそびえる、広大な王城。
葛葉キリカは下界を見下ろす偉大なる女王――世間的には学校法人の理事長――として、君臨している。
女王となる宿命を背負って生まれてきた女だった。
財産・権力・名誉…。
この世に生を受けたその時から、キリカにはすべてがあった。
さらには、才能にも恵まれていた。
学生時代の成績は常にトップ。
あらゆる事を完璧にこなす天才、文武両道の才媛であった。
キリカの人生は、何もかもがうまく行き過ぎていた。
だが、キリカの心は満たされていなかった。
「ふう」
書類を処理しながら、キリカはため息をついた。
(つまらぬ…)
白皇学院の理事長に就いたものの、毎日の仕事が実につまらない。
くだらない書類の処理、バカバカしい会議や面白くもないパーティーや催しへの参加。
キリカは昔、まだ理事長の座に収まる以前、白皇学院の理事長はもっと面白い仕事なのだと思っていた。
ところが実際はつまらない仕事の繰り返しである。
実質的に、学院を動かしているのは優秀な理事や職員たちだと言えた。
ある程度大きな組織になれば、世の中はたいていそんなものである。
それは理解していたが、キリカは今の仕事に強い不満を抱いていた。
「やっておれぬ!」
キリカは両の拳で机を叩いた。




キリカは学院の近くにある銀杏商店街にひとり、立っていた。
わがままな性格であるキリカは、欲求不満が限界(その値は一般人よりもかなり低い)に達すると、気まぐれな行動を取る。
仕事の放棄、スケジュールの変更は日常茶飯事である。
その都度、学院内は騒ぎになるのだが、傍若無人なキリカの知ったことではない。
キリカが銀杏商店街を訪れるのは、今日が初めてであった。
周囲の人間が、自分に視線を送る。何やら声を潜めて話している。
この高貴で華麗な私に、驚いているのであろう。
あまりにも美しすぎて、近寄りがたいに違いない。
キリカはそう思っていた。
これまでの人生で、キリカは自分の美しさを疑った事は一度もなかった。
事実、キリカは美しい女だった。
しかし実際には、高級ブランドで着飾った、あまりにも場違いな女性に皆、引いていただけであった。
そんな事実に気付くことなく、キリカは商店街で甘いものを買い漁り、食べまくった。
店の者達が呆然となるほどの、大量買い・大量食いであった。

商店街を闊歩するうちに、キリカは一軒のコーヒーショップを見つけた。
ちょうど、たくさん甘いものを食べた後で、ノドが渇いていた。
「邪魔するぞ」
キリカは店の戸を開いた。
「いらっしゃいませー!」
店内に、朗らかな声が響く。キリカは声の主を見て、足を止めた。
(おお…)
笑顔の美しいウェイトレスに、感嘆の声が漏れそうになった。
「お好きな席へどうぞー」
ウェイトレスに言われるがまま、キリカは適当な席に座る。
いつもならクレームをつけるであろう固い椅子が気にならないほど、ウェイトレスに見入る。
めったに見かけることのない、高レベルの美少女だった。
彼女から、目が離せない。
(なぜだ…どうして…)
キリカは、これまでに経験したことのない、不思議な感覚に襲われていた。
(こんなに…胸が高鳴るのだ…?)
「ご注文はお決まりでしょうかー」
ウェイトレスが水を持って来て、注文を尋ねた。
キリカはその問いに答えなかった。
というより、聞こえていなかったという方が正しいだろう。
しばらく雪路をじっと見つめ続けた後、言った。
「…お前、名は何という?」
「名前?雪路だけど…。それより注文は?」
ウェイトレス――雪路の口調が、若干荒っぽくなった。
スマイルが崩れ、不満が顔にはっきり表れていた。
そんな表情さえも、キリカには愛おしく思えた。
ノドの渇きも忘れ、キリカは望むものを大声で注文した。
「雪路!お前が欲しい――――――――――!!」
キリカは素早く立ち上がり、雪路を強く抱き締める。
「うわあ!ちょっ…何?何なの?」
初対面の女性から突然抱擁され、雪路は驚いて悲鳴を上げた。
その悲鳴を無視して、キリカはさらなる行為に及ぼうとした。
ところが。
「いきなり…何すんのよ!」
雪路の叫びと共に、キリカの視界が反転した。体が宙を舞っていた。
「な…」
全身が床に叩きつけられる。反射的に受け身をとる。
投げ飛ばされた。その事を認識するのに、時間がかかった。
彼女はその肉体に、信じられないほどのパワーを隠し持っていた。
(この私が…投げられた?)
細腕の華奢な――出るべきところは出ていたが――少女に投げられるとは――。
天井を仰ぎながら、キリカは驚きを隠せなかった。
「くくく…」
キリカはゆっくりと立ち上がる。こみあげる笑い。
笑顔のキリカに、雪路が明らかな警戒の色を見せる。
「面白い…面白いぞ…」
この少女、何としても手に入れたい。力ずくでも。
大胆不敵な笑みを浮かべ、キリカはボクシングのような構えを取る。
雪路も同様に構え、戦いの火蓋は切って落とされた。
拳と拳のぶつかり合い。
キリカは雪路に向けて、百パーセントの力で挑んだ。
キリカは感じていた。手加減なしで行かなければ勝てない、と。
しばらくの間、激しい攻防を展開する。実力はほぼ互角と言えた。
拳を打ち合った末に、互いの動きが止まった。
間合いをとり、キリカと雪路は互いに見つめ合う。
「…やるではないか」
「あんたもね」
雪路の目には強い光が宿っていた。その目は何者も恐れぬように思えた。
(実に、良い目をしている…)
ますます、欲しくなって来た。
エネルギー源である甘味は、さきほど充填したのでまだまだ十分。
これからが本番。キリカが雪路に向かって行こうとした、その時。
店の入り口を背にしていた雪路の背後から、子供が現れた。
小さな闖入者は、突然雪路を手にした竹刀で殴りつけた。
「お姉ちゃん!何やってるの!」
「うわっ!痛っ!ヒナ、これには深い事情が…」
キリカと互角に渡り合った雪路が、幼いちびっ子に防戦一方である。
憤るちびっ子と、許しを乞う雪路。
蚊帳の外に置かれたキリカは、二人を見ながら立ちつくした。
戦う気力は、完全に失せてしまった。

「また来るぞ、雪路!」
戦いでメチャクチャになった店内を直している雪路に、キリカは言った。
キリカは、雪路をあきらめたわけではなかった。
とりあえず、今日のところは一旦帰るだけである。
欲しいものは何でも手に入れて来た。
いつか必ず、この美少女を我がものとする。
キリカは心に決めていた。
「もう来なくていいわよ!今度お姉ちゃんに近づいたら、許さないんだから!」
キリカに向かって、ヒナと呼ばれた少女が吠えた。
厳しい表情で、こちらを見据えていた。その目には、明らかな敵意がこめられていた。
このような態度になったのは、雪路が事情を話した後である。
キリカが雪路に抱きついて、あんな事やこんな事をしようとしたので、大変立腹しているようであった。
(まったく…生意気なちびっ子だ)
キリカはこのちびっ子とは、今後も敵対する事になるだろうと思った。
しかしこのちびっ子、見た目は良い。身のこなしも非常に優れている。
とても面白い素材だ。磨けば、さぞ素晴らしい輝きを放つであろう。
そんな事を考えながら、キリカは白皇学院へと帰っていった。




白皇学院に戻ったキリカはコーヒーでノドを潤した後、すぐに行動を起こした。

「大至急、理事会を召集しろ!来ないならこっちの勝手にするぞと言え!」

――我が居城であるこの学院に、たくさんの美少女を集めるのだ。

ただ見た目が美しいだけでなく、才能豊かな面白い少女たちを――。

雪路との出会いによって、キリカの中で大きな変化が起こった。
美少女への愛――性的なモノではない――に目覚めたのである。
それは名門・白皇学院の歴史を、劇的に変えて行く事となる出来事であった。
「これからは、私自ら生徒を選ぶ!」
キリカはこれまですべて下の者に任せていた入試に、自分が関わる事にした。
これまでやる気のなかったキリカの変貌に、どよめく理事たち。
彼らを前に、キリカは有無を言わせぬ口調で宣言した。
「それだけではないぞ!さらに制度の改革を行う!」
さらに奨学金や留学生の受け入れなど、新たな制度を次々と考案した。
近隣のお金持ちの子息だけではなく、各地から多くの美少女を集めるためのしくみである。
ごく短時間で見事な案を考え、披露するキリカ。
大いなる野望の実現に向けて突進するキリカを、誰も止められなかった。

この改革(そう呼ぶのはキリカくらいであったが)がもとで、下の業務は大きく増えた。
本来の仕事をしない。仕事をどんどん増やす。
生徒(美少女)に手を出すなど、問題を起こす。
そんなキリカに仕える者たちは、給与等の待遇が良いとはいえ大変であった。
彼らの負担を軽くするため、元々強かった白皇生徒会の自治は、ますます強まる結果となった。




「理事長。この書類、確認お願いします」
「うむ」
二月某日。キリカは職員の持って来た書類を、丹念にチェックしていた。
これまでは退屈でつまらないと思っていた、理事長の仕事。
その仕事で――やるべき仕事は今でもよくサボるのだが――今、キリカは無上の喜びを感じていた。
書類に書かれているのは、キリカ好みのきわめて優秀な美少女のデータ。
皆、キリカが様々な手段を駆使して、白皇学院への入学にこぎつけた少女達であった。
今キリカが承認すれば、この美少女達の白皇学院への入学が決まる。
何のためらいもなく、キリカはすべての書類に判を押した。
満面の笑みを浮かべ、キリカは確信していた。
春が来たら、美少女達との夢と希望にあふれた素晴らしい日々が始まるのだと。

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コメント
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2009/01/04 22:01  | | #[ 編集]
-  -
>非公開の方
コメントありがとうございます。
今後もSS作りをがんばりたいと思います。
2009/01/05 22:58  | URL | 六角坊 #Y5QOCgjg[ 編集]
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