魂のリフレイン
2008/08/03(Sun)
小ネタ的なアテネSSを一本。
本気にしないで下さい。
 
SS「魂のリフレイン」


「ここから……!! 出ていけばいいんだ――!!!!」
愛しいハヤテは、このロイヤル・ガーデンから去ってしまった。
私の激情に任せて発した、激しい言葉の為に。
私は何という事をしてしまったのだろう。
「ううっ…ハヤテ…ハヤテぇ…」
今になって、後悔してももう遅い。でも後悔せずにはおれない。
私はハヤテを失った悲しみに打ちひしがれ、慟哭した。
ただひたすら泣きじゃくった。
床に突っ伏し、ぼろぼろと涙を流し続けた。
このまま体中の水分を出し続け、カラカラの干物になってしまうのではないかと思うくらい泣いた。
静かなロイヤル・ガーデンに、私の嗚咽だけが響いていた。


私はゆっくりと、おぼつかない足取りで長い階段を上り始める。
悲しみに満たされた私の目指した場所は、城の屋上。
屋上から、眼下の地面を見つめる。
もう、ここから身を投げてしまおうか――。
吹き付ける冷たい風を体に感じながら、絶望に包まれた私は思い詰めていた。


そこでふと、私の脳裏にハヤテの顔が浮かんだ。
視界に、ハヤテと初めて出会った花畑が見えているせいだろうか。
あるいはここが、私の名をハヤテが叫んだ場所であるせいなのか。
ハヤテとの思い出が、次々と堰を切ったように溢れ出す。
それまでずっと私一人だったこの城で、突然訪れたハヤテと共に過ごした日々。
剣や掃除を教えた。
執事の仕事について教えた。
一緒に遊んだ。
永久の愛を誓った。
それはわずか二ヶ月の間に起こった事。
そのいずれもが、決して忘れることの出来ない記憶。
かけがえのないものだった。


思い出と同時に、涙がまた溢れ出てきた。
「ハヤテ…ハヤテ…ハヤテ…」
私はしゃがみ込み、愛するハヤテの名を連呼する。
徐々に感情が昂ぶって行く。
自然と声が大きくなり、叫び声になっていた。
「ハヤテ―――――!! ハヤテ―――――!!」
沈み行く夕陽の下、涙を流しながら私は何度も何度も繰り返し、ハヤテの名を叫んだ。
ハヤテはもういない。だから聞こえるはずもない。
けれど私はずっと、叫び続けた。
世界に届きそうな声で。
かつてこの場所で、ハヤテが自分の名を叫んだ時のように。
「戻って来て、ハヤテ―――――!!」
そうすれば再び、きっとハヤテは自分の元へ戻って来る。
そんな事は、ありえないはずなのに。


日が暮れた。
声が嗄れるほどハヤテの名を叫び、目が赤く腫れるほど泣いて――。
私の心は、ようやく落ち着きを取り戻した。
城の中に戻り、階段を下る。
私はハヤテと剣を交えた吹き抜けへ戻った。
床に落としてしまった、ハヤテの指輪を拾い上げる。
大人用であるその指輪は、細い私の指に余る。
指でつまんだ指輪を眺め、私はある誓いを立てた。

ハヤテがいなくなって、私はまた一人である。
でも、もう淋しくはない。
ハヤテとの、美しく輝かしい思い出の数々。
今も私の中に残る、ハヤテへの燃えるような愛。
ハヤテが私に、生きる糧をくれたのだ。
それをエネルギーにして私は自らを奮い立たせ、暗い絶望の淵から抜け出した。

その日から、私の生活は一変した。
知識を深めるため、城内の書物を片っ端から読み始めた。
古今東西、さまざまな分野の本を読み漁る。
「ロミオとジュリエット。これはパスですわ」
でも悲恋の物語は却下。

体を鍛えるべく、トレーニングを始めた。
スポーツ関係の文献を調べる。
「生卵を五個一気飲み? 効き目あるのかしら?」
腕立て、腹筋、背筋、スクワット、その他ストレッチに筋力トレーニングで、強い体を作る事にした。
広大な城の周りが、マラソンコースだ。

「ふふふ・・・無駄とも思える努力を積み重ねて、女は美しくなるのですわ」
今のままでも私は充分美しいが、さらなる美しさを追い求め始めた。
生活習慣を見直し、健康的な日々を心がける。
髪や肌の手入れなども、今まで以上に強く意識する。
まだ若いので化粧品は必要ない。

これらはすべて、愛するハヤテのためであった。




私は固く信じている。
いつの日かきっと、ハヤテは私の元に戻ってくると。
たとえ今はダメでも成長すれば、ハヤテはあのクズのような両親がどれほど愚かしい人間であるかに気付くはず。
将来必ずや訪れるであろう、その時のために――私は己をただひたすら磨く。
ハヤテのくれた指輪がはめられるようになる頃――。
私は女神の美貌と豊富な知識、さらに抜群の身体能力を兼ね備えた、完璧な美少女になっているはずだ。
今よりも一層魅力的な女となった私に、ハヤテは惚れ直すに違いない。
過去の事は水に流し、もう一度世界の中心で、愛をさけぶのだ!
その日が来るのを待っているぞ、ハヤテ!

「だから早く帰って来なさい! ハヤテ―――――!!」

城の周りを走りながら、私はハヤテの名を叫んだ。

私の名は天王州アテネ。
この世界で最も偉大な女神の名にふさわしい、唯一無二の存在だ!

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