キラー・クイーン
2007/07/22(Sun)
昨年から考えていたSS。
アニメのおかげで、白皇学院理事長が女性だと判明したので公開します。


「キラー・クイーン」

「というわけで、よろしくお願いしますね、桂先生」
私は後ろを振り返り、それまでは背を向けていた桂先生をじっと見つめた。
桂先生は私の言葉に色をなくし、ひどく追い詰められた表情をしていた。
私のしつこい言葉責めが効いたのだろう。
いつもの元気はどこかへと消え失せていた。

力ない足取りで、理事長室から桂先生が出て行った後。
私は大きく息を吐いた。

「ふぅ・・・たまんないわぁ〜雪ちゃん」

私はさきほどの桂先生こと、雪ちゃんが見せた表情を思い出していた。
あの焦った顔がたまらなく興奮する。
その顔を見ているだけで、私は彼女をもっといじめたくなってくるのだ。

今私は、編入試験を受けに来た三千院家の新しい執事である少年に、不合格の通知をするよう雪ちゃんに命じた。
雪ちゃんは試験直前、彼にニセの試験で悪戯を仕掛けていた。
だから雪ちゃんは彼の不合格に、責任を強く感じている。
その雪ちゃんの抱く罪悪感を見越した上での命令だった。
普通、試験官が試験の合否を直接本人に通知するなんてありえないのに、雪ちゃんは単純だ。
雪ちゃんは今、さぞや困っているだろう。
優等生の妹に泣きついている雪ちゃんを想像して、私は身悶えした。
しばらくの間、脳内映像で可憐な雪ちゃんの姿を楽しむ。

「・・・こんなことをしている場合では、ありませんね」
私はふと我に帰った。
一人はしたない妄想に耽るだけでは、この白皇学院は経営していけない。
私には、やらねばならぬ事があるのだ。
私は仕事モードにすぐさま切り替わり、旧知の人間に連絡をとった。

「はい、もしもし」
「私です」
「これはこれは・・・お久しぶりです」
「貴方に頼みたい事があります」
私は電話の相手に対して、依頼内容を簡潔に伝えた。
相手ははじめ難色を示したが、最終的にはおとなしくこちらの要望に従ってくれた。
利口な子は物分かりがよくて助かる。



「そうですか・・・よく分かりました」
私の元へ、待ちに待った連絡が入った。
「ところで、あの、例の件ですが――」
「分かっていますよ。特急で手配しましょう」
「ありがとうございます、理事長」
「いえいえ。ところで頼んでおいた例のモノはきっちり出来ていますか?」
「・・・はい。早急にお送りします」
ドン引きしている相手の様子が、私にははっきりと見えた。

受話器を下ろし、私はこみあげてくる笑いを抑えきれずに口元を歪める。
電話は三千院家のメイドで元・白皇学院生徒会長のマリアからだった。
私は彼女に、今夜綾崎君の不合格を伝えるため三千院家へ向かった雪ちゃんの様子を事細かに確認したのだ。
雪ちゃんはなかなか不合格の件を告げることが出来ず、右往左往したという。
結局、本人の口からは言えなかったそうだ。
「ふふ・・・まだまだね」
パワフルで頑丈なくせに、心の弱い子だ。
見た目は大人、頭脳は子供と言ったところだろうか。
まだまだ彼女は未熟である。
――だが、そこがいい。

なお雪ちゃんやマリアは知らないが、不合格は嘘であった。
実はギリギリながらも一応、彼は合格していた。
合格したなら即入学させて欲しいという三千院家の意向もあり、もう彼を白皇へ迎え入れる準備は万端だった。

そもそもたかが一点のために、三千院家の執事を不合格になどしない。
財力や権力に屈する気は毛頭ないが、経営上三千院家との関係は常に良好であるべきなのだ。
実はちょっと編入試験での猿を使った悪戯について、雪ちゃんにお灸をすえたかっただけなのである。
不合格の知らせに一度は強いショックを受けたであろう綾崎少年や、雪ちゃんの妹である生徒会長など、振り回された周囲の人々はいい迷惑だっただろう。
だが正直言って、それらは私にとって些細な事だった。

「ふ・・・ふふ・・・」
三千院家の屋敷で土下座している雪ちゃんの画像を鑑賞しながら、私は笑っていた。
マリアに頼んで、こっそり撮影させたものである。
「うふふふ・・・本当にかわいいわ――雪ちゃん」
私が情けない雪ちゃんの姿に気分を高揚させていると、内線電話で連絡が飛び込んで来た。
映像を止め、素早くいつもの冷静沈着な私に戻る。
「私です。どうかしましたか?」
「理事長!また桂先生が――」
またも、雪ちゃんがこりずに問題を起こしたらしい。
「――分かりました。後で桂先生を理事長室へ」
「了解しました」
教職員たちは雪ちゃんが問題を起こすと、すぐに私を頼ってくる。
雪ちゃんは大柄で精鋭揃いな白皇の警備員たちも苦しめられるほど、喧嘩が強い。
だから、口より先に手が出る雪ちゃんを恐れる彼らの気持ちは分かる。
しかし少しは気概というものを見せて欲しい。
雪ちゃんより強い人間も、この白皇学院には大勢在籍しているのだから。

もっとも、雪ちゃんを叱責する事は私にとって――最高の楽しみだ。

理事長室の扉をノックする音がした。
「どうぞ」
ゆっくりと扉が開く。
まるで理事長室に爆弾でも置いてあるかのような態度で、おそるおそる入ってくる雪ちゃんの姿が見えた。

(うふふふ・・・楽しみですね・・・)
私はにこやかな微笑みで、不安げな表情の雪ちゃんを迎え入れた。
これから始まる素晴らしいひとときに――胸を躍らせながら。

さあ、今日は雪ちゃんにどんな調教、もとい指導をしようかしら。

(終わり)
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