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衝立の乙女
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2008/08/17(Sun)
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ハヤテSSをお送りします。
主要登場人物は、ハヤテと雪路です。 元ネタは小泉八雲「衝立の乙女(The Screen-Maiden)」ですが、まったく原形はとどめていません。 東京に、ハヤテという名の書生がいた。 ある日の夕方、ハヤテは家に帰る途中、古道具屋の店先で呼び止められた。 古道具屋の店主は理沙といい、ハヤテの知り合いだった。 「やあハヤ太君。この衝立はどうかね。安くしとくよ」 「いえ、結構です」 ハヤテは即答して、立ち去ろうとした。 だが、理沙はハヤテの腕を取り、食い下がった。 「まあそう言わずに」 「ですから、いりませんってば」 「買ってくれたら、サービスするから」 「はあ…何をしてくれるんですか?」 「む、私の口から言わせる気か。ハヤ太君は筋金入りの変態だな…」 「どんなサービスですか!?」 押し問答の末、結局ハヤテは衝立を押しつけられてしまった。 ちなみに、ハヤテが「サービス」を固辞した事は言うまでもない。 「はあ…」 家に帰り、ハヤテはあらためて買った衝立の絵を眺める。 値段のほうは破格の安さであったが、お金のないハヤテには痛い出費であった。 衝立には紙が張られ、その上に女の全身が描かれていた。 女はこちらに向かって微笑んでいる。描かれた女は実に美しかった。 年齢は推定で二十代後半、といったところだろうか。 目や髪、口や手足、額にあるほくろのようなもの。 体の細かい部分までが、きわめて丹念に描かれている。 まるで生きているようだ、とハヤテは思った。 女の美貌は、賞賛に値するものだろう。 作者の情熱をひしひしと感じる。 しかしハヤテは、この衝立の絵をどうしても好きになる事が出来なかった。 何か――生理的な何かが――受け付けなかったのだ。 (前世で遺恨でもあったのかもしれないな) ハヤテはふと、そんな事を思った。 その後、ハヤテは突如体調を崩した。 もともと貧乏暮らしで食事は少なかったが、何も食べられなくなった。 夜眠れなくなり、学問にも取り組めなくなってしまった。 (やばい…し、死ぬ…) 明らかにハヤテは重病であった。 ハヤテは、自分でももうダメかもしれない、と思うほどの状態になっていた。 病気になったハヤテの見舞いに、友人たちが続々訪れた。 その友人たちの中に、とても博学な人物がいた。 伊澄という名のその人物は、ハヤテが病気だとの知らせを聞くと、すぐさま屋敷を出発した。 「こんばんは、ハヤテさま。お体の具合はいかがですか」 「こんばんは伊澄さん。もう夜中ですけど…」 「あら?…本当ですね」 他の友人たちはもう皆、帰った後であった。 彼女は博学だが、道によく迷う人物だったのである。 「むむ!」 ハヤテの狭い部屋に置かれていた衝立を見て、伊澄が瞳を光らせた。 何かに気付いたような顔だった。 「その衝立がどうかしましたか、伊澄さん」 「この絵から…不思議な力を感じます」 伊澄が衝立について訊ねて来たので、ハヤテは衝立を買った時の事をかいつまんで伝えた。 博学な伊澄はいった――。 「その衝立の絵は薫京ノ介、という昔の絵師が描いた絵です。描かれた人物は、桂雪路と言います。この絵には、彼女の魂がこもっています」 「そ、そうなんですか…」 ハヤテは驚きのあまり、それしか言えなかった。 なおも伊澄は続ける。 「おそらくハヤテさまの病はこの絵によるものです。このままでは、ハヤテさまは死にます」 「ええっ!?」 伊澄はきっぱりと断言する。 あまりにも唐突な死の宣告に、ハヤテは愕然とした。 慌ててハヤテは寝床から背を起こす。 「た、助かる方法はないんですかっ!?」 しがみつくハヤテに、伊澄は「雪路」を指差していった。 「まず彼女を先生と呼んでください。尊敬の念をこめて、毎日呼ぶのです。それから――」 「先生、ですか。それから?」 「百種類のお酒を買って来て、彼女に差し出すのです。すると彼女はお酒に釣られて衝立から出て来ます」 「へ?お酒?」 「彼女は大の酒好きなのです。それでは――」 それだけ言って、伊澄は立ち去った。 「百種類のお酒って…」 仮に安いものを買っていったとしても、チリも積もれば山だ。 相当なお金がかかる。 ハヤテは頭を悩ませたが、自分の命がかかっている。 背に腹は変えられない。 残された力をふりしぼり、病をおしてハヤテは仕事に励んだ。 貯めたお金で、酒屋を何軒もまわり、お酒を集めて行く。 「ハヤテ、お前なんか大変らしいな」 「今日はおごるよ、ハヤテ君」 「あ、ありがとうございます…」 そんなハヤテに、友人たちも援護を惜しまなかった。 「先生、今日はこれを買って来ましたよ」 夜の静寂に包まれた部屋。絵は無言である。 ハヤテはたとえ反応がなくとも、毎日「先生」に話しかける事を忘れなかった。 ハヤテの忍耐力や辛抱強さは、常人を遥かに凌いでいた。 苦心の末、ハヤテはとうとう百種類の酒をそろえたのだ。 狭い部屋の中に、大小さまざまな酒ビンがずらりと並ぶ。 そこでハヤテの肉体は、とうとう限界を迎えた。 体が言う事を聞かなくなり、ハヤテは絶対安静の状態になった。 「先生…出てきてくださいよ。お酒、百種類ありますから…」 ハヤテは寝床から、衝立の絵に向かって言った。 それは、ほとんどうわ言のようなものだったが――。 「うん。そうする」 ついに、衝立の女が返事をした。 絵から抜け出てきた女――雪路は、驚いて声も出ないハヤテのそばに歩み寄ると、微笑んだ。 その微笑みは、絵の中にいたときよりもずっとまぶしく思えた。 彼女はたくさんの酒ビンを眺め、満足げな表情を浮かべて言った。 「あんたの愛、確かに受け取ったわ」 「いや、愛はないんですけど…」 「いただきまーす」 ハヤテの言葉を無視して、雪路は手にした酒ビンを開けた。 ぐいぐいと、一気に飲み干す。 戦国時代の荒武者を思わせる豪快な飲みっぷりに、ハヤテはただ圧倒された。 「ぷはーっ。おいしーい!」 満面の笑みをたたえて、雪路は叫んだ。 あぜんとしているハヤテの前で、雪路は次のビンを手にとり、また飲んだ。 そのビンが空になると、さらに飲む。 次々飲む。どんどん飲む。 雪路の勢いは、とどまる所を知らなかった。 「ふぅー。まだまだ行くわよぉ〜」 四十本近くまで来たところで、雪路はさすがにふらふらし始めた。 「もう今日はそのくらいにしたらどうですか、先生」 「まだ三十七本じゃないの〜!朝まで飲むわよ〜」 「そんな無茶な…」 そこまで言って、寝床から起き上がろうとしたハヤテは頭がくらくらしてきた。 絶対安静にも関わらず、無理に動いてしまったせいである。 意識が遠くなって――ハヤテの視界は闇に閉ざされた。 鳥のさえずる声がする。 窓から差し込んでくる日の光。 「ん…」 ハヤテは目覚めた。体が鉛のように重い。 これはまだ充分快復してないな、とハヤテは思った。 その直後。 「うーん…もぉ飲めないよ〜」 予想外の所から――ハヤテのすぐ近くから雪路の声がした。 なんと、雪路がハヤテに覆い被さる形で眠っていたのである。 貧しいハヤテの家に布団は一つしかなく、泥酔した雪路が温かい場所を求めて潜り込んだものと思われた。 「う、うわあああああ!」 思わずハヤテは悲鳴をあげた。 自分の上にいる雪路を、何とかどかそうとする。 華奢なくせに猛烈なパワーで動こうとしない雪路を強引に横へ追いやり、寝床から起き上がろうとしたその時。 友人たちが見舞いにやって来た。 間の悪い事に、ハヤテは雪路を押し倒すような格好になっていた。 「ハヤテ…お前、何やってんだ」 「ハヤテ君…?」 「いや、あの、その…これは…」 友人たちの中には、女性も含まれていた。 ハヤテに想いを寄せている者もいたから、大騒ぎである。 ハヤテは生きながらにして、黄泉の世界を垣間見た。 その後、ハヤテの病は癒え――すっかり快復した。 また、百種類の酒を見事一夜で飲みきった雪路が、気分を損ねて衝立に戻る事はなかった。 後に、伊澄がハヤテの病気が良くなったと聞いて、訪ねて来た。 この日も道に迷ってしまったらしく、来訪は夜遅かった。 伊澄はハヤテの快復を喜んだ。 「良かった…ハヤテさまの恋の病――治られたようですね」 「いえいえ。僕、恋なんてしてませんよ?そんな余裕ありませんし」 ハヤテの返答に、伊澄はしばらく沈黙してから、言った。 「え?あの絵の女性に恋焦がれていたのでは――なかったのですか?」 「そんな事、一度だってありませんよ!これからも、未来永劫ありません!」 これ以上ないというくらいに、ハヤテは全力で否定した。 ハヤテの病は恋煩いとはまったく別のものであり――ハヤテは持ち前の生命力でそれを克服したのだった。 伊澄は、大きな勘違いをしていた。 「あー、熱燗ちょうだい。代金はそこに住んでるハヤテ君につけといてー」 大きな声が聞こえて、ハヤテは部屋を飛び出す。 近くに来ていた屋台で、雪路がハヤテに無断でお酒を飲んでいた。 絵から出て来た雪路には当然身寄りがないので、ハヤテと一緒に暮らしているのである。 「ちょっと!また勝手にお酒飲んで!今日という今日は許しませんよ!」 「やべっ!逃げろ!」 「待て―――――!!」 雪路はお銚子をしっかりと掴んで、風のごとく逃げ出した。 ハヤテがその後を追う。 「…終わり良ければすべて良し、ですね――」 不敵な笑みで逃げる雪路と、必死の形相で追いかけるハヤテ。 伊澄はそんな二人を見ながらぽつりと呟き――。 静かにお茶を一杯、飲んだ。 雪路は乙女…なのだろうか?(FC2 Blog Ranking) |
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魂のリフレイン
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2008/08/03(Sun)
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小ネタ的なアテネSSを一本。
本気にしないで下さい。 SS「魂のリフレイン」 「ここから……!! 出ていけばいいんだ――!!!!」 愛しいハヤテは、このロイヤル・ガーデンから去ってしまった。 私の激情に任せて発した、激しい言葉の為に。 私は何という事をしてしまったのだろう。 「ううっ…ハヤテ…ハヤテぇ…」 今になって、後悔してももう遅い。でも後悔せずにはおれない。 私はハヤテを失った悲しみに打ちひしがれ、慟哭した。 ただひたすら泣きじゃくった。 床に突っ伏し、ぼろぼろと涙を流し続けた。 このまま体中の水分を出し続け、カラカラの干物になってしまうのではないかと思うくらい泣いた。 静かなロイヤル・ガーデンに、私の嗚咽だけが響いていた。 私はゆっくりと、おぼつかない足取りで長い階段を上り始める。 悲しみに満たされた私の目指した場所は、城の屋上。 屋上から、眼下の地面を見つめる。 もう、ここから身を投げてしまおうか――。 吹き付ける冷たい風を体に感じながら、絶望に包まれた私は思い詰めていた。 そこでふと、私の脳裏にハヤテの顔が浮かんだ。 視界に、ハヤテと初めて出会った花畑が見えているせいだろうか。 あるいはここが、私の名をハヤテが叫んだ場所であるせいなのか。 ハヤテとの思い出が、次々と堰を切ったように溢れ出す。 それまでずっと私一人だったこの城で、突然訪れたハヤテと共に過ごした日々。 剣や掃除を教えた。 執事の仕事について教えた。 一緒に遊んだ。 永久の愛を誓った。 それはわずか二ヶ月の間に起こった事。 そのいずれもが、決して忘れることの出来ない記憶。 かけがえのないものだった。 思い出と同時に、涙がまた溢れ出てきた。 「ハヤテ…ハヤテ…ハヤテ…」 私はしゃがみ込み、愛するハヤテの名を連呼する。 徐々に感情が昂ぶって行く。 自然と声が大きくなり、叫び声になっていた。 「ハヤテ―――――!! ハヤテ―――――!!」 沈み行く夕陽の下、涙を流しながら私は何度も何度も繰り返し、ハヤテの名を叫んだ。 ハヤテはもういない。だから聞こえるはずもない。 けれど私はずっと、叫び続けた。 世界に届きそうな声で。 かつてこの場所で、ハヤテが自分の名を叫んだ時のように。 「戻って来て、ハヤテ―――――!!」 そうすれば再び、きっとハヤテは自分の元へ戻って来る。 そんな事は、ありえないはずなのに。 日が暮れた。 声が嗄れるほどハヤテの名を叫び、目が赤く腫れるほど泣いて――。 私の心は、ようやく落ち着きを取り戻した。 城の中に戻り、階段を下る。 私はハヤテと剣を交えた吹き抜けへ戻った。 床に落としてしまった、ハヤテの指輪を拾い上げる。 大人用であるその指輪は、細い私の指に余る。 指でつまんだ指輪を眺め、私はある誓いを立てた。 ハヤテがいなくなって、私はまた一人である。 でも、もう淋しくはない。 ハヤテとの、美しく輝かしい思い出の数々。 今も私の中に残る、ハヤテへの燃えるような愛。 ハヤテが私に、生きる糧をくれたのだ。 それをエネルギーにして私は自らを奮い立たせ、暗い絶望の淵から抜け出した。 その日から、私の生活は一変した。 知識を深めるため、城内の書物を片っ端から読み始めた。 古今東西、さまざまな分野の本を読み漁る。 「ロミオとジュリエット。これはパスですわ」 でも悲恋の物語は却下。 体を鍛えるべく、トレーニングを始めた。 スポーツ関係の文献を調べる。 「生卵を五個一気飲み? 効き目あるのかしら?」 腕立て、腹筋、背筋、スクワット、その他ストレッチに筋力トレーニングで、強い体を作る事にした。 広大な城の周りが、マラソンコースだ。 「ふふふ・・・無駄とも思える努力を積み重ねて、女は美しくなるのですわ」 今のままでも私は充分美しいが、さらなる美しさを追い求め始めた。 生活習慣を見直し、健康的な日々を心がける。 髪や肌の手入れなども、今まで以上に強く意識する。 まだ若いので化粧品は必要ない。 これらはすべて、愛するハヤテのためであった。 私は固く信じている。 いつの日かきっと、ハヤテは私の元に戻ってくると。 たとえ今はダメでも成長すれば、ハヤテはあのクズのような両親がどれほど愚かしい人間であるかに気付くはず。 将来必ずや訪れるであろう、その時のために――私は己をただひたすら磨く。 ハヤテのくれた指輪がはめられるようになる頃――。 私は女神の美貌と豊富な知識、さらに抜群の身体能力を兼ね備えた、完璧な美少女になっているはずだ。 今よりも一層魅力的な女となった私に、ハヤテは惚れ直すに違いない。 過去の事は水に流し、もう一度世界の中心で、愛をさけぶのだ! その日が来るのを待っているぞ、ハヤテ! 「だから早く帰って来なさい! ハヤテ―――――!!」 城の周りを走りながら、私はハヤテの名を叫んだ。 私の名は天王州アテネ。 この世界で最も偉大な女神の名にふさわしい、唯一無二の存在だ! 良かったらクリックお願いします。 (FC2 Blog Ranking) |
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雪路むかし話〜白雪姫
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2008/07/02(Wed)
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ハヤテの昔話が続いています。
そのせいか最近、ウチのSSは雪路の過去を描いたものが多くなっています。 ・・・捏造ですけど。 今日は第182話感想の代わりに、SSを投下します。 「ハヤテむかし話」の頃に思いついた、雪路の昔話をご覧下さい。 白雪姫=雪路です。 「雪路むかし話〜白雪姫」 昔々、ある王国に白雪姫と呼ばれる大層美しいお姫様がいました。 白雪姫はグータラでわがままな性格で、とにかくお酒が大好きなダメ大人でした。 だからいい歳して、白雪姫は独身でした。 「やかましい!男なんていらないのよ!」 ――ある日のこと、白雪姫は人生最大のピンチを迎えていました。 その美しさが継母に嫉妬されて、殺されそうになったわけではありません。 ふと気が付くと、白雪姫は森の中に一人で寝ていたのです。 白雪姫は起き上がり辺りを見回します。 記憶をたどりますが、そこはまったく知らない場所でした。 「え? ここどこ?」 白雪姫の記憶は、完全に欠落していました。 昨夜のことは、きれいさっぱり覚えていません。 二日酔いらしき頭痛と、手にしていた酒ビンから察するに、お酒を飲みすぎてしまったようでした。 「うーむ・・・ま、なんとかなるでしょ」 こんな危機的な状況でも、白雪姫は前向きでした。 「む、いい匂い」 木々の生い茂る森をさまよううちに、白雪姫は一軒の家を見つけました。 木造の家から、食べ物の匂いが漂ってきます。 「ちっ。お菓子の家じゃないみたいね」 白雪姫は、自分の役柄も忘れてぼやきます。 白雪姫は一軒家の戸を叩き、家の中に向けて快活な声で叫びました。 「こんばんはー。哀れな行き倒れでーす。食べ物とお酒をめぐんでくださーい」 「そんな元気な行き倒れがいるか!」 家の中から、三人の小人が飛び出してきました。 四人ほど足りませんが、気にしてはいけません。 すかさず白雪姫はその中で、一番鈍そうだと思った小人を捕らえます。 「ほえ?」 白雪姫は小人の中の一人を人質にとって、他の二人を脅かしました。 一国の姫とは思えぬ、盗賊まがいの所業です。 「さあ、食べ物を出しなさい!あとお酒も!この子がどうなってもいいの?」 酒ビンを捕まえた小人の頬に当て、白雪姫はすごみました。 そんな白雪姫に、二人の小人はおそれおののきます。 「も、もしや!その酒ビンを××に××する気か!」 「さらに×××へ××して××××するつもりでは・・・ああ、何という恐ろしい事を・・・」 「そんな事するか―――――!!」 不適切な単語を連発する小人たちに、白雪姫は顔を真っ赤にして怒鳴ります。 「冗談だ。私たちに脅迫は無駄だぞ」 「なんですって!」 小人たちは白雪姫の脅しに屈しませんでした。 仲間の一人がちょっとアレな人物に捕らわれているというのに、余裕の表情です。 「そいつはいじめられるのが好きだからな。今もお前に捕まって、興奮しているぞ」 「はうう! そ、そんなことないよー!」 白雪姫の腕の中で、人質の小人が慌てて否定します。 「ほーら、喜んでいる」 「違うよー! 喜んでないよー!」 大騒ぎの後、白雪姫は小人たちと和解しました。 「私は白雪姫。よろしく」 「白雪姫・・・どこかで聞いた事があるな・・・」 「ああ、お城の壁を蹴破って冒険の旅に出たというあの・・・」 「どこのおてんば姫よ!違うっての!この世で一番美しい事で有名な白雪姫よ!」 白雪姫の発言に、小人たちは三人口をそろえて「知らない」と言いました。 実際、美しさよりも姫にあるまじき行動の数々で有名な姫だったのです。 「なんですって!この小人A・B・C!」 でも自分の美しさに自信がある白雪姫は吠えました。 「おい、勝手にエキストラ扱いするな。私は美希だ」 「泉だよ」 「・・・理沙だ。ふふ、同じネタは二度も使わんぞ」 「はいはい、美希がA、理沙がB、泉がCね」 「胸を見ながら言うな!!」 まあそんなこんなで、白雪姫は小人たちとすぐに仲良くなりました。 帰る事も出来た白雪姫ですが、しばらく小人たちとここで暮らすことに決めます。 最近白雪姫は、家族や家来からお酒の飲みすぎを注意されていました。 さらに、早く結婚しろとも言われていました。 うっとうしいので、あえて隠れる事にしたのです。 そんなある日のこと、白雪姫は小人たちと、かくれんぼをして遊んでいました。 「もしもし」 「ん? 誰?」 白雪姫に怪しい人物が接近します。 「私は通りすがりのりんご売り。おいしいりんごはいかが?」 黒いローブに身を包んだその姿は、どう見てもりんご売りには見えませんでした。 そもそもこんな深い森の中に、りんご売りは普通いません。 でもちょうどお腹がすいていた白雪姫は、りんご売りを疑いませんでした。 「今なら大サービス。一個だけタダよ」 「じゃ、一個ちょうだい」 タダという言葉につられた白雪姫は、すぐにりんごを口にしました。 「あれ? 何、これ・・・?」 白雪姫はりんごを食べた途端、意識がもうろうとなりました。 薄れていく意識の中で白雪姫が最後に見たものは、優しい微笑み。 (お義母さん・・・?) あやしげなりんご売りの正体は、白雪姫の継母でした。 白雪姫が意識を取り戻すと、そこは自分が小人たちと暮らしている家の中でした。 「おお、やっと起きたか」 「心配したぞ」 「ユキちゃん・・・良かった」 「ううう・・・」 白雪姫は三人の小人以外に、知らない顔の少年がいることに気付きました。 少年は何故か、すすり泣いていました。 「誰こいつ?」 「彼はハヤ太君。なんとかいう国の王子らしいぞ」 「あの、ハヤテですよ?」 「まぁどっちでもいいわ。で、どこの王子なの?」 少年から国の名を聞いて、白雪姫は彼が隣国の王子だという事を知りました。 「へえ。ずいぶん貧相な顔の王子様がいたのね。何でここにいるわけ?」 「ふふふ。それはな――」 「わ―――――! 言わなくて良いです!」 王子が小人の言葉を大声で遮りましたが、白雪姫が拳で王子を黙らせました。 小人たちは楽しそうに、白雪姫が眠っていた間の事を語りだします。 小人たちは戻ってこない白雪姫を探していました。 すると、白雪姫が謎の女性に服を脱がされているところに出くわしました。 小人たちは木の陰に隠れ、しばらく白雪姫を鑑賞します。 その後変な趣味の女性を追い払った小人たちは、眠ったままの白雪姫を家に運びました。 そこへ、道に迷っていた隣国の王子がやってきたのです。 道を尋ねた王子に、小人たちは交換条件を出しました。 帰り道を教える代わりに、小人たちは白雪姫にキスするよう強要したのです。 「この女に愛の口づけをすれば助けよう。嫌ならば出て行け。この迷いの森で野垂れ死にだ」 「ほえ?ここ、そんな危ない森だったっけ?」 「細かい事は気にするな、泉。さあ少年、お城に帰りたければキスしたまえ」 「うう。そんな殺生な・・・」 かなり逡巡したようでしたが、王子は白雪姫へのキスに同意したのでした。 「即答しなさい!普通はすぐOKするものでしょ!」 話を聞き終わるや否や、白雪姫は王子に鉄拳制裁を行いました。 さらに、小人たちには一発ずつ拳骨をお見舞いです。 「そんな。蓬莱の玉の枝を取ってくるより大変ですよぉ」 王子は顔を押さえて涙目でした。 「なんですって!あんな竹から出てきて月に帰ったワガママ姫と同じにするな!」 「ワガママさではいい勝負だと思いますけど」 「なんだとー!バカにすんなー!」 失礼な事を言う王子に、白雪姫は怒って襲い掛かりました。 王子はボコボコにされ、無残な有様です。 「ううう・・・僕はどうして・・・こんなことに・・・」 「おだまり!」 自らの不幸を嘆く王子に、白雪姫は容赦なく蹴りを入れました。 「わかったわよ、責任はとるわよ」 「へ?」 「あなたと結婚すればいいんでしょ?」 「あ、いや、キス一回で何もそこまで・・・そもそも、逆じゃないですか?普通」 突然の話で、うろたえる王子。 白雪姫はそんな王子をよそに、話を強引に進めていきます。 「じゃあ、行きましょう。ご両親に挨拶しないとね・・・うふふふ・・・」 白雪姫は不敵な笑みを浮かべました。 どう見ても、結婚の報告に行く顔ではありません。 右手に一振りの剣を握り締め、外へ出ようとした白雪姫を小人たちが呼び止めました。 「白雪姫、旅立つ前に一本どうだ」 「ささ、ぐいっと飲め」 「あら。気が利いているわね・・・」 小人たちが手渡した物を左手でつかみ、お酒だと思って一気に飲み干そうとする白雪姫。 しかしそれは、酒ビンではありませんでした。 「こんなもん、飲めるか―――――!!」 酒ビンよりずっしりとした重みのそれを見て、白雪姫は怒り心頭です。 「大丈夫、人間離れしたお前になら出来る!」 「あきらめたらそこで試合終了だぞ!」 「うっさい!これで叩くぞ!」 小人たちが持ってきたのは、大きな金棒でした。 お酒は底なしに飲める白雪姫でしたが、どこかの姫と違い金棒は飲めません。 「金棒なんて、全然お姫様らしくない!もっといいエモノはないの!?」 言動がすでにお姫様ではない白雪姫。 白雪姫は、伝説的な剣やすごい魔法の使える杖が希望でした。 小人たちは難色を示しながらも、家の奥から色々と武器を引っ張り出します。 「うーん。鉄の爪に、黒くて尖ったハイヒール、ムチとローソク・・・こんなものだな」 「ほえ?なんでウチにこんなものがあるの?」 「ふふふ、それは秘密だ。さあ白雪姫、好きなのを選べ」 「なんでそんな偏ったモノしかないのよ!もぉいい、これで行くわ!」 白雪姫は金棒を両手持ちして、素振りをします。 その猛烈なスイングは風を起こし、不気味な唸り声を立てました。 王子と小人たちを連れて、隣国の城に乗り込んだ白雪姫。 金棒を手に暴れ回る白雪姫を、止められる者は誰一人として存在しませんでした。 まさしく、鬼に金棒。 これは王国の歴史に残る、鮮やかなクーデターでした。 王子の両親を追放し、白雪姫は一夜にして王子の国を乗っ取ったのです。 王子の両親が悪政を行うろくでなしだったため、白雪姫は領民たちに感謝されました。 こうして華麗に一国を手中に収めた白雪姫。 しかし、自分で政治を行うのは面倒でした。 「じゃ、あとよろしく」 「もぉ、あなたって人はまったく・・・わかりましたよ」 白雪姫は王子を王位に据えて、国政を任せました。 王子は両親よりまともだったので、領民たちは以前より幸せに暮らせたということです。 白雪姫はお城でのんびりと暮らし始めました。 白雪姫は自分の部屋でお酒をグイグイ飲みながら、よく分からない事を口走ります。 「あれ、そういえばお義母さんは? 原作だと最後に焼かれるんじゃないの?」 飲み過ぎて、だいぶ酔っているようです。 するとそこへ、しばらく顔を見ていなかった継母がふらりとやってきました。 「白雪姫ちゃん、久しぶり〜」 「あ、噂をすれば――。って、お義母さん・・・どうしたの、それ」 白雪姫は久しぶりに会った継母の変化について、質問せずにはいられませんでした。 継母が、にこにこしながら答えます。 「ああ、これ?ちょっと焼いてみたの。これでビーチの視線は一人占めよね」 「ビーチって・・・水着、着るの?」 継母は太陽の光に焼かれ、健康的な小麦色の肌をしていました。 「はい、じゃあオチもついたところで――」 「オチになってないでしょ。で、何しに来たの?」 「白雪姫ちゃんが結婚するって聞いたから、飛んで来たのよ」 「は? 結婚?」 「ずいぶん年下のかわいい子と結婚するのね〜。うらやましいわ」 「え?」 嫌な予感が背中に走り、白雪姫は部屋を飛び出します。 お城の中を、あわただしく使用人たちが動き回っていました。 よく見るとそれは、白雪姫と新しい王様になったハヤテとの、結婚式の準備です。 毎日お酒ばかり飲んでゴロゴロしていたので、白雪姫はまったく気がつきませんでした。 王妃になれば、色々と面倒事が増えます。 大好きなお酒を飲みながら、ずっと楽しく遊んで暮らしたい白雪姫は、王様と結婚する気など毛頭ありません。 「この日を待っていたわ」 義母はドレスを手に、微笑んでいました。 ドレスはフリルがいっぱいついたもので、白雪姫が最も嫌うタイプのものです。 しかし継母には、ただならぬプレッシャーが漂っていました。 ムリヤリにでも着替えさせる、といった雰囲気です。 いつの間にか、小人たちが白雪姫のもとに駆けつけていました。 「さあ、式の準備は整ったぞ」 「三十路前にして、ようやく結婚だな」 「おめでとう、ユキちゃん」 「さ、さてはあんたたち・・・仕組んだわね」 白雪姫以外は皆――おそらく、ここにいない王様は不機嫌でしょうが――とても楽しそうな顔をしています。 白雪姫はお酒の酔いが一気に覚めていくのを感じました。 継母や小人たちが間合いを詰め、白雪姫はじりじりと壁際に追い詰められて行きます。 「さあ白雪姫ちゃん、ドレスを着ましょう。着替え、着替え♪」 「あ、いや、ちょっと待って・・・うきゃああああああ!」 こうして白雪姫は王様と結婚し、末永く幸せに暮らしたということです。 めでたし、めでたし。 原形とどめてない。(FC2 Blog Ranking) |
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コーヒーブレイク。他にも色々ブレイク
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2008/06/29(Sun)
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SS投下。約10年前のお話です。
京ノ介視点で、雪路・ヒナギクが出ます。 SS「コーヒーブレイク。他にも色々ブレイク」 春。 大学生になったばかりの俺こと薫京ノ介は、幼なじみの雪路がコーヒーショップを始めたという話を耳にした。 雪路は両親が借金で蒸発し、8000万円の借金という十八歳の少女にとってあまりにも重い荷を背負っている。 コーヒーショップは、元々その逃げた両親がやっていたものだ。 早速、俺は様子を見に行く事にした。 以前と変わらずに建っている、コーヒーショップ。 入口の扉を開けた俺は、信じられない光景を目にした。 「いらっしゃいませー!」 店内に元気良く響いたのは、聞き慣れた雪路の声。 明るい笑顔の雪路を視界にとらえた瞬間、俺は全身が硬直した。 信じられないものが、そこにはあった。 雪路が何と――メイド服を着ていたのである。 エプロンドレスにミニスカートでニーソックスという、強力な装備だった。 「あの・・・大丈夫ですか?」 声が聞こえ、俺はふと我に返る。 声の主は雪路の妹であるヒナギク。まだ六歳、小さな子供である。 ヒナギクは俺の顔を心配そうに見つめていた。 どうやら俺はメイド服姿の雪路を見た直後から、放心状態に陥っていたようだ。 強い衝撃を受け、俺の脳はフリーズを起こしたらしい。 「ヒナ。ほっといていいのよ、そんなバカ」 姉のほうは、俺のことを何一つ心配していなかった。 客である俺を放置して、カウンターを拭いている。薄情者だ。 「雪路・・・何だその格好は」 我に返った俺は、雪路にメイド服を着ている理由を訊ねた。 雪路の精神状態を疑いたくなったのである。 「ああ、これ?コスプレでお客を増やそうと思って」 雪路はいつもの調子で俺の問いに答えた。 メイド服で客を集めようなんて、実に安易な考えである。 世の中そんなに甘くない。俺は呆れた目で雪路を見る。 「なによその目は。見てなさい、そのうちお客がバンバン来るから」 雪路は啖呵を切った。 しばらく待ってみたが――客はあまり来なかった。 近所のヒマな常連と、友人たちくらいしか来ない。 雪路が着ているメイド服への反応は今一つで、どちらかと言えば引かれているようだった。 不満げな顔をして、雪路がぼやく。 「うーん、やっぱメイドじゃダメみたいね。高校の制服にしようかしら」 「そういう問題じゃないだろ。変なコスプレはやめろ」 欲望の満ちあふれる歓楽街なら、一定の集客効果はあるだろう。 だが、ここはどこにでもあるような商店街の一角である。 近所の人に風紀を乱すとか何とか、怒られるのがオチだろう。 「ああ、うるさいのはもう来たわね。丁重にお引き取り願ったけど」 何をしでかしたのだろう。過去の経験から判断すると、とんでもない事をやっている。 いちいち詳しく聞く気にはなれない。 「はあ、ヒマね。掃除くらいしか、することがないわ」 「・・・俺の頼んだアメリカンは?」 「あ、忘れてた」 「おい!」 メイド服姿のマスター兼ウエイトレスが経営する店の先行きに大きな不安を感じつつ、俺は注文したコーヒーが来るのを待つ。 俺は外の景色を眺めながら、自らの無力を呪っていた。 知り合いの危機だというのに、自分は何一つ手助け出来ない。 せいぜい、毎日この店へ通う事くらいだ。 「はぁ」 俺はため息をつく。 「どうしたの?」 「え?」 雪路の声を耳にして、俺は反射的に顔を上げる。 目の前に、俺の顔を覗き込むようにして雪路が立っていた。 「さえない顔しているわね。いつも以上に」 「一言多いぞ」 「あんた今、何か悩みがあるわね」 「別に・・・何でもねーよ」 至近距離にある雪路の顔から、俺は目を逸らす。 内心の動揺を隠しながら、水を口にする。 雪路は俺の鼻先に指を突きつけ、こう断言した。 「ははぁ・・・恋の悩みね!」 「ぶっ」 驚異的な洞察力であった。俺は口から水を吹き出しそうになり、あわてて口を手で覆う。 「しかも片想いと見た!」 「なっ・・・そ、そんなんじゃ・・・」 「相手は誰?ほら、言いなさいよ。相談に乗ってあげるわ、どうせヒマだし」 「そ、それは・・・」 肝心のところは見抜けない。見抜かれても困るが。 そもそも今、お前は人の相談に乗っている場合じゃないだろう。 「ちょっとー。黙っていたらわからないでしょ」 「いや・・・その・・・」 片想いしている相手の名前を言わない俺に、雪路が詰め寄って来る。 言えるわけが無い。 俺が恋焦がれる女は今、目の前にいるのだ。 「何よ、人が親切にしてあげているのに!まったく!」 しどろもどろの俺に、とうとう雪路はしびれを切らした。 雪路が拳を叩きつけ、テーブルが大きな音を立てる。 俺にとって、それは実に理不尽な怒りであった。 (そもそも俺が頼んだのはコーヒーであって、恋愛相談じゃないぞ) もちろん、好きだと言えない自分にも問題はあるから、文句は言えない。 俺は今の雪路とのやりとりで、精神的にひどく疲れた。 ところで、頼んでいるアメリカンはまだなのだろうか。 腹立たしげに大股で店の奥へと向かう雪路の後ろ姿を見ながら、俺は思った。 「はい。お待たせしました、アメリカンコーヒーです」 俺は視線を雪路から、声のした方向に移す。 ヒナギクが、コーヒーの乗ったトレイを手に立っていた。 雪路があの調子なので、代わりにコーヒーを持って来てくれたらしい。 「ありがとう、ヒナちゃん」 俺はかわいいウエイトレスにお礼を言って、コーヒーを受け取る。 「あの・・・」 ヒナギクがどこか遠慮がちに、何かを言いたそうにしている。 「ん?」 「私で良かったら、相談に乗ります・・・」 おそるおそるといった感じで発せられたヒナギクの優しい言葉に、俺はとても癒された気がした。 よく出来た妹だ――とても雪路の妹とは思えない。 雪路も優しい部分を持ってはいるが、いかんせんメチャクチャすぎる。 「お兄ちゃんの好きな人は、誰なんですか?」 「すぐ近くにいるよ・・・本人は全然気付いてないみたいだけど」 微笑みながら、遠まわしに雪路の事を言う。 「えっ・・・」 ヒナギクが大きな瞳をさらに大きく見開いた。 驚きをあらわにしている。 「きゅ、急にそんな事、言われても困ります・・・」 「は?」 一瞬、ヒナギクが何を言っているのか分からなかった。 しかし顔を赤らめてあわてているヒナギクを見て、俺は気付いた。 ヒナギクがとんでもない勘違いをしている事に。 「わ、わ、私、まだ六歳ですし!これまで恋とか、考えた事もなかったです!」 「わあああ!違う!違うんだヒナちゃん!」 ヒナギクは、俺がヒナギクの事を好きなのだと思ってしまったようだ。 とんでもない誤解である。 勘違いでおろおろするヒナギクを落ち着かせようと、俺はヒナギクの両肩をつかむ。 「えっ!そっ、そんな、いきなり・・・ダメです!や、やめてください!」 逆効果で、ヒナギクはますます混乱した。 おそらく、俺が何かとんでもない事をしようとしていると思ったに違いない。 手足をばたつかせてもがくヒナギク。その体を押さえようとする俺。 傍から見れば、かなり危険な光景だった。 「こらぁ―――――――――――!」 「ぐあっ!」 ヒナギクの悲鳴を聞きつけた雪路が文字通り飛んできた。 鮮やかなドロップキックを受けて、俺はひっくり返る。 起き上がると、雪路が憤怒の表情で俺をにらみつけていた。 「まさかヒナを狙っていたなんて!このロリコンめ!」 「違うって!誤解だ!」 「うっさい!黙れ変質者!」 「はうっ!」 俺の腹に、雪路の鋭い蹴りが炸裂。重い一撃で、胃液が逆流しそうになる。 さらに問答無用で、雪路は俺に襲いかかって来た。 「うああ!やめろ―――――!」 突進してきた雪路によって、俺はいとも簡単に押し倒される。 雪路は俺の上に乗っかり、容赦なく豪腕を叩き込んで来る。 やめてくれと叫んでも声は届かず、俺は雪路に殴られ続けた。 「はわわ・・・お姉ちゃん、暴力はやめて・・・」 「ヒナ、これは暴力じゃなくて正義の裁きなの。ヒナに劣情を抱くような奴はこうなる運命なのよ」 雪路は目の前の惨劇をどうにかしょうとしたヒナの制止も聞き入れなかった。 翌日も俺は、雪路のコーヒーショップへ来ていた。 昨日は俺の上に雪路が乗っかっている時にお客が来て、過激なサービスをしていると思われて大変だった。 それで懲りたのか、今日の雪路は私服の上にエプロンを着けている。 メイド服はやめたらしい。 「新しいデザインの制服を鋭意制作中よ。すごくカワイイやつが出来るから、楽しみにしていなさい」 「ふーん。別にどうでもいいよ。それよりアメリカンくれ」 頭の中で、知っているウエイトレスの制服をいくつか思い浮かべる。 なぜか、ウエイトレスの制服を着て闘っている雪路の姿を想像してしまう。 口では無関心を装いつつも、内心またメイド服姿を見た時のように固まってしまいそうだと思った。 「昨日は、すみませんでした」 申し訳無さそうな顔で、ヒナギクがコーヒーを持って来た。 俺に深々と頭を下げる。どうやら、誤解は解けたようだ。 「いや、いいよ。気にしてないから」 俺が言うと、ヒナギクの顔がぱっと明るくなった。 「本当ですか?ありがとうございます!ゆっくりしていって下さい!」 ヒナギクの笑顔は純粋な、本当に良い笑顔である。 俺はヒナギクの持って来た温かいコーヒーを飲みながら思った。 店内には今、俺以外に客が一人もいない。 でも近い将来、ここにはたくさんのお客が訪れるようになるのではないだろうか。 この子と雪路の笑顔があれば、不可能ではない。 俺がそんな、ほとんど願望に近い事を考えていると、いきなりヒナギクが尋ねて来た。 「お兄ちゃん、何かいい事があったんですか?」 「えっ!?い、いや、何も・・・」 知らず知らずのうちに、俺の顔には微笑みが浮かんでいたようだ。 反対にヒナギクは口元を手で押さえて、恐怖の表情を浮かべている。 いったいどうしたというのだろう。 「ま、まさか、お姉ちゃんを見てエッチな事を・・・」 またもや、ヒナギクは派手な勘違いを披露してくれた。 俺は、そんなにもスケベそうな笑顔をしているというのか。ショックである。 確かに雪路を見ていたが、ヒナギクが考えているような事を想像するわけがない。 「ダメです!エッチなのはいけません!」 「いや、だから。そんな事考えてないって」 ヒナギクは俺の脳内でいけない妄想が渦巻いていると思い込み、おののく。 ああ、やっぱりこの子は雪路の妹だ。 「こらぁー!ヒナに何やってんのよ!」 「うおっ!」 ヒナギクの悲鳴を聞きつけて、雪路が攻撃してきた。今度は飛びヒザ蹴りである。 頭に血が上った雪路によって、不当な暴力を受ける俺。 目の前で起こる流血の惨事に怯え、うろたえるヒナギク。 俺はボコボコにされながら、強く思った。 この騒がしくて危ないメチャクチャな店は、今まで通り流行らない方がいいのかもしれない、と。 メイド雪路(FC2 Blog Ranking) |
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囁く百合 花菱美希の陰謀
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2008/06/13(Fri)
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当初、第179話感想の代わりにコレを投下しようと思っていました。
一応第179話の感想は書いたので日を改め、本日公開とします。 今回は美希が主役のSSです。 SS「囁く百合 花菱美希の陰謀」 私の名は花菱美希、白皇学院中等部の三年生である。 今、私は進路に関する事で悩んでいた。 自室の椅子に腰掛けて、じっと一人物思いに耽る。 悩んでいるのは自分の進路について――ではない。 私自身は、初等部から高等部までエスカレーター式に進級だ。 これといって、特に憂慮すべき事など無かった。 私が考えていたのは、友人の桂ヒナギクこと、ヒナの進路である。 私はヒナギクの事が――どうしようもなく好きだった。 この想いがいわゆる百合的なものなのか、それとも憧れや尊敬のようなものなのか。 そこは自分自身でも、いまだによくわからない。 あれは、忘れもしない初等部の頃。 嫌々行っていた学習塾で、いじめられていた自分を助けてくれたヒナ。 あれ以来私は、何とか時間を捻出してはヒナに会いに行く。 でも、それでは物足りなかった。ヒナと、もっと会いたかった。 私は自他共に認める、面倒くさがりである。 これまでの人生で、これほど何かに執着した事はない。 私は何度も思った。 「ヒナが白皇学院に通っていたら良かったのに」 「そうすれば、学校のある日はヒナと毎日会えるのに」 私は今、真剣に考えていた。 どうすればヒナが、白皇学院に来てくれるかを。 問題なのは、如何にしてヒナを白皇学院に行きたいと思わせるか、である。 とりあえずヒナの家を訪れた際に、白皇学院の学校案内を持参した。 「これが最新版だそうだ。実は私も今日始めて見る」 「ふーん、そうなの」 ヒナの部屋で二人、一緒に見る。 表紙を開くと、自信満々で大胆不敵な笑みを浮かべ、壮観な景色の広がる場所でポーズを決めた女性の全身写真が写っていた。 派手な色彩の衣装に身を包み、全身のいたるところに高級なアクセサリーを身に付けている。 それを見て、ヒナがげんなりした顔で私に訊ねた。 「誰よこれ?」 「・・・うちの理事長」 「大丈夫なの?白皇学院」 「・・・たぶん」 いきなりのマイナス評価。これでマイナス20点は堅い。 巻頭から10ページはすべて、理事長のカラーグラビアだった。 理事長の美しさや優秀さを褒め称える、アオリや文章入りである。 カラーページ満載。OB・OGの著名人による推薦文や、おまけマンガまでついている。 とことん豪華で美麗な、百ページを超す分厚い冊子。 一見するととても学校案内には見えない、金のかかったシロモノだった。 「どうかな?」 「うーん、確かにいろんな意味ですごいけど・・・ねぇ」 残念ながら、ヒナの反応は今一つであった。 原因は理事長のグラビアだけではない。白皇学院の環境は大変魅力的である。 素晴らしい学校だと訴えたが、ヒナにはあまり伝わらなかった。 ヒナギクにとって環境の良し悪しは、学校選びの重要な要素ではないらしい。 ヒナ自身は、最寄りの都立高校への進学を考えているらしかった。 通っている人たちには失礼な言い方になるが、ごく普通の高校である。 私が理由を訊ねると。 「近い方が楽だから」 そっけないヒナの返答に、私はなんとなくヒナの思いを感じ取る。 おそらくヒナは御両親に、経済的な負担をかけたくないのだ。 ヒナの御両親はヒナの事を溺愛している。 愛するヒナの為なら火の中水の中、金に糸目はつけないという印象だ。 だが御両親が良くても、ヒナ自身はその好意に甘えるつもりがないのだろう。 進路に関して、ヒナの意志は固いように思えた。 私がどうこう言ったところで、ヒナの考えを曲げる事などできそうにない。 これはだめかもしれない。 粘りのなさに定評のある私が、早々とヒナの白皇入りをあきらめかけた時である。 階段を荒々しく駆け上がる音がしたと思った直後、突然部屋のドアが開いた。 「ヒナ!おね――」 そこで言葉が途切れ、代わりに悲鳴が響いた。 部屋に入ってきた人物に対し、ヒナが竹刀をふるったからである。 「いったーい!何するのよー!」 頭を抱えてうずくまったのは、ヒナの姉である雪路だった。 生真面目なヒナとは違い、常識外れでメチャクチャな性格。 グータラでだらしない。お金に汚い。お酒に溺れている。 そのせいか何をやっても長続きせず、職を転々としているらしい。 家を出て一人暮らししているが、しばしば戻ってきてはヒナや御両親にお金をたかる。 もう、様々な意味でダメな大人である。 「お姉ちゃん。ノックをしなさいって何度言ったらわかるの?」 「うう・・・ごめんなさい」 ヒナが怖いオーラを出しながらにらむと、雪路は目を潤ませて謝罪する。 まるで小さい子供のようだ。ヒナの方が精神年齢は上かもしれない。 「で、何の用?お金なら貸さないわよ」 「違うもん!お姉ちゃん、お金借りる以外にもたくさん用事あるもん!」 「じゃあ何よ?ごはん食べさせろとか?」 「それも違うわ!あのね――お姉ちゃん、先生になるわ!」 「「は?」」 予想外な雪路の発言に、二人そろって疑問の声を上げる。 「だから、先生になるのよ。今日はそれを伝えに来たの」 私が「先生」と聞いて、真っ先に浮かんだのは政治家だった。 花菱家は代々政治家の家系。我が家の家業みたいなものである。 だが雪路が政治家になるなど未来永劫、革命が起こってもありえない。 「教師になるの?教員免許も無いのに?」 「大丈夫!私立ならいらないから!」 雪路のいう「先生」は、学校の教師を指していた。 雪路は自信満々といった様子でVサインを作る。 話によると、最近まで雪路はアルバイトで家庭教師をやっていたらしい。 雪路に勉強が教えられるのかはなはだ疑問だが、中学生の女の子を教えていたそうだ。 その教え子の中学生にかなり好かれて、いい気になっているようである。 家庭教師が上手くいったから、学校の教師を目指す。よくわからない論理だ。 「で、採用してもらえる学校に心当たりはあるの?」 ヒナがうんざりしたような顔で訊ねた。 「ないわよ」 「何よそれ!」 無計画である事をあっさり認めた雪路に、ヒナが激昂した。 「だいたい家庭教師をやっていたなんて聞いてないわよ!私の知らない所で、よその女の子といったい何を――」 「ふええ・・・そんなに怒らなくてもいいじゃない!」 ヒナに強く責められて、雪路が涙目になる。 言い争う(かなりヒナ優位だが)ヒナと雪路をじっと眺めていた時、私はある事をひらめいた。 雪路が先生になると言い出してから数日後のことである。 私は雪路の暮らすアパートを訪ねた。 空きビン、お菓子、雑誌、衣類、ゲーム、カセットテープ、ゴミ・・・。 安アパートの狭い部屋に、雑多なモノが散乱している。 猛烈な嵐の過ぎ去った後を思わせる惨状で、足の踏み場にも困る。 そんな部屋の主はまさに、嵐を巻き起こすモンスター。 雪路は敷きっ放しのふとんに薄着でだらしなく寝そべり、テレビを観ていた。 「やあ、雪路」 私はドアを開けて部屋の中に入ると、雪路がこちらを向いた。 「あー?何の用?」 「実は――」 露骨に「面倒くさい」オーラを放つ雪路への用件はただ一つ、白皇教師の待遇を伝える事。 私が給料の額を伝えた途端、雪路は飛び起きて目の色を変えた。 「ホント!?白皇ってお給料、そんなにもらえるの!?」 「ああ。現役の教師に聞いたから、間違いないぞ」 雪路は定職に就いておらず、収入が少ない。 このアパートの家賃にも困っている有様らしい。 そんな雪路には、白皇学院の教師はかなり魅力的な条件だったようである。 予想通り、瞳を輝かせる雪路を見て私は笑みを浮かべた。 「あいつめ・・・白皇でずいぶん稼いでいるみたいね・・・今度おごらせよう」 雪路はぶつぶつと忌々しげに呟いた後、口元を歪めた。 (あいつ?) 雪路は白皇学院に知り合いがいるようだ。 後に、その知り合いが高等部の体育教師である薫先生だと知った。 「よっしゃ、決まり!行くぞ白皇学院!」 雪路が右腕を高く掲げ、意気込む。 雪路はすぐさま履歴書を部屋の隅から探し出し、勢い良く書き始めた。 (お金がからむと、別人だな。何て行動力だ・・・) これほど情熱にあふれた雪路を、未だかつて見た事があっただろうか。 雪路の強欲さは以前から知っていたが、私は驚きを隠せなかった。 「よし。良く映っているな」 私はパソコンのデータを確認する。 画面に映し出された動画は、雪路のものである。 拳をふりかざし、縦横無尽の大暴れ。 いかにも不良っぽい連中とたった一人で渡り合っている。 以前、街で大立ち回りを演じていた時の姿をこっそりと撮影したものだ。 私は雪路のことを調べ、主な武勇伝を資料としてまとめあげた。 大急ぎで調査したため最近の事しかわからなかったが、それでも充分すぎるほど雪路の生活は愉快なエピソードで満ち溢れていた。 用意した画像のディスクや資料を、人を介して理事長へと提出する。 おそらく雪路は――あの理事長の好みだろう。 理事長は平穏を嫌い、面白い出来事を愛する。 時折、退屈しのぎに校内で暴れ回るはた迷惑な理事長の性格を、私は冷静に分析していた。 (それにしても・・・) こうして、目的のために様々な策を張り巡らせる自分が、私は可笑しく思えた。 普段の面倒くさがりな性格はどこへやら、あれこれと私は積極的に行動している。 自分は政治家にはまったく向いていないと思っていたが、血は争えないのかもしれない。 私の根回しが上手く行ったのか、雪路は首尾よく白皇学院高等部の世界史教師として採用された。 春から雪路は高校教師となる。 「――じゃ、そういうことで〜♪」 採用の決定を、嬉々とした表情で報告しに来た雪路。 ノックをしなかったので今日もヒナにぶたれていたが、最後はにこやかに森○童子の歌を歌いながら去って行った。 ――その高校教師はダメだろう。 雪路が生徒と恋に落ちる展開なんて、巨大隕石が地球に衝突する確率よりも低いだろうが・・・。 雪路が去った後も、ヒナは虚空を見つめて呆然としていた。 「これは何かの間違い・・・それともドッキリかしら?」 ヒナが弱々しい声で小さく呟く。無理もない。 あの雪路が、世間で名門と呼ばれている白皇学院の教師になったのである。 雪路をよく知る人物ならば、誰もが驚く事だろう。 そこで私はヒナに――囁いた。 今日、雪路が報告にやって来ると読んで、訪問していたのは言うまでもない。 「雪路の奴、これからもあの調子だと大変だな。白皇で何かやらかさなきゃいいが・・・」 「そうね・・・」 「誰かが、あいつの暴走を止められればいいんだが・・・私じゃ無理だなぁ」 「そうね・・・お姉ちゃんを止めるには・・・」 「雪路を止めるには――ヒナみたいな真面目で強い奴が、必要だよな」 「そうね・・・私が一緒でないと・・・お姉ちゃんはダメなのよね!」 自らに言い聞かせるように、ヒナが叫ぶ。 心の隅で何か少しひっかかったが、その言葉を私は肯定した。 「その通りだな」 抜け殻のようになっていたヒナが生気を取り戻す。 「美希。私、白皇学院に行くわ!」 私はヒナから、激しく燃えさかる炎のような熱い意志を感じ取る。 力強いヒナの姿は、白皇学院の教師を目指すと宣言した時の雪路に似ていた。 さすがは姉妹だな、普段は全然似ていないのに――と、私は思った。 こうしてヒナは決意を新たに志望校を白皇学院へと切り替え、見事に合格した。 ついに、待ち焦がれた春がやって来た。 白皇学院高等部・入学式の日。 「おはよう、美希」 「お、おはよう・・・ヒナ」 校門で白皇学院の制服に身を包んだヒナを間近で見た時、私は天にも昇る気持ちだった。 それもこれも雪路が「先生になるわ!」などと、バカな事を言い出したおかげである。 (ありがとう、雪路) 私は心の中で雪路に深く感謝した。もちろん、本人に言うつもりはない。 そう言えば、教師になった雪路がどんな面白いことをしでかしてくれるのか。 それも楽しみだ。 ヒナと共に過ごす三年間の、一万分の一ぐらい。 私はこれから始まる高校生活に胸躍り、心ときめかせた。 過去を捏造。(FC2 Blog Ranking) |
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